お会いする前から、自分に自信がないと聞いていました。
しかし、初対面からほがらかな笑顔を見せてくれたため、自信がない人のようには見えませんでした。
雰囲気も柔らかく、とても優しそうなのが一目で分かります。
この彼をFさんとお呼びしましょう。
□『いい人』は『都合のいい人』?
Fさんは、公共機関で窓口業務をされています。
そのせいか人当たりがとても柔らかく、また、人と触れ合う機会が多いせいか、初対面でも緊張している感じはありませんでした。
きっと、老若男女から慕われるんだろうなと、Fさんの仕事ぶりが想像できます。
そうFさんに伝えると、お礼を言いながらも「でも、女性から恋愛対象として見られないんです」と、話してくれました。
Fさんは、男子校育ち。
更には一人っ子で、近所に同じ年頃の女の子がいなかったせいもあって、女性と触れ合う機会をあまり持てずに過ごしてきました。
大学は文系のため、男性ばかりの環境から女性が多い環境にガラッと変わったので、そこで女性とのつき合い方を学ぶことになります。
人当たりもよく小柄なFさんは、女性からすんなり受け入れられました。
どんなタイプの女性からも嫌われるということはなかったのでホッとしていたのですが、しばらくして自分は男性として見られていないのではないかと気づきます。
なぜなら、いい雰囲気だと思っていた女性がいても、なかなか恋愛には進展しないからです。
むしろ、気になっている女性から恋愛相談をされることもあって、あまり異性を意識されていないことを知りました。
『Fくんと一緒にいると落ちつく』
という言葉は誉め言葉だと思っていましたが、そうじゃないということにも気づきました。
親しくしていた女性に告白をしたこともありますが、『友だちとしておつき合いしたい』と言われて、そのまま疎遠になったこともあります。
Fさんとしては、友人関係ではなく恋人としておつき合いをしたいのに、特別な目で見られることはなく、彼女ができないまま大学生活は終わりました。
その後、就職した先でも状況は学生の頃と変わらず、『いい人』で終わってしまいます。
嫌われるよりはいいと思って、女性に常に優しくしてきましたが、Fさんを男性として見てくれる人は残念なことに現れませんでした。
□努力の方向性が間違っていた
女性から好意を持たれようと頑張っているのに、なかなかそうならない現実にFさんは疲れてしまっていました。
一見穏やかに見えたFさんですが、お話が深くなると『自分はこんなに真面目に頑張っているのに、誰も自分のことを分かってくれない』という怒りや絶望のような気持ちも出てきました。
それで当然なのです。
努力しているのに結果が出ないという状況の中で、へらへら笑っていられる人などいないのですから。
むしろ、こういった感情は周囲の人には見せられないと思うので、暗い感情をFさんのことを知っている人がいない所で吐き出すことができて良かったと感じました。
いつまでも心の中に溜め込んでいたら病気になってしまうので、嫌な感情を吐き出すことは大事なことです。
Fさんは、ただ努力の方向性を間違えてしまっていただけ。
根が真面目で頑張り屋なので、この努力の方向性を変えていけば、これからいくらでも女性と出会うチャンスはあると思いました。
まず、『いい人』で終わってしまう人に多いのが、『嫌われたくない』気持ちが強すぎるということです。
『嫌われたくないから、好かれることをする』
って、とてもシンプルな気持ちですよね。
でも、その時に取る行動は『相手に楽しんでもらいたい』からではなく、『自分の評価を下げたくない』ために、相手によくしようとしがち。
Fさんも女性と二人で出かけた経験はそれなりにあるのですが、買い物のつき合いだったり、映画のつき合いだったり、彼氏の愚痴聞きだったりと、女性の都合に合わせたものばかりで、デートの感覚はあまりありません。
また、優しいFさんは、お茶をする時もどこの店がいいか女性に聞き、何が食べたいかまで相手に聞くといいます。
映画は女性が観たいものに同行するため、自分で観たいと思った映画を観たことはありませんでした。
なぜかというと、女性と二人で出かける時は男性側がリードをするよう先輩に教えられていたからです。
この場合のリードというのは、「そろそろ歩き疲れたからお茶にしようかと思うんだけど、この近くだったらスイーツの有名なお店があるし、少し歩くけど穴場のカフェがあるよ。どちらがいい?」といったものでしょうか。
けれども、Fさんのしていたように、女性が行きたいところに行くのは、リードというより主従関係に見えます。
もちろん主従で恋愛感情が芽生えることもありますが、ちょっと難しいシチュエーションですよね。
また、親しくなった女性に、手を繋いでいいかどうかを聞いて断られてしまったのだそうですが、もしかしたら、その確認をしなかったら手を繋いでも嫌がられなかったかもしれませんし、二人の仲も変わっていたかもしれません。
意外と思うかもしれませんが、女性に「手を繋いでいい?」と確認をするのは、優しく見えて実は優しくない行為なのです。
なぜなら、手を繋ぐ決断を女性にゆだねるからです。
「私は別にどちらでもよかったのに、無理やり繋がれちゃって……」という言い訳を女性にさせてあげられることって大切なのです。
これは、手を繋ぐというだけの問題では収まりきれませんね。
お昼を食べる時も「何食べたい?」と聞くのは、女性からしたら面倒なことを投げられたと感じる人が多いですし。
「この後どこ行こう?」というのも、女性の意見を尊重しているようで、女性の対応力に任せられている気がします。
そういったことが続くと、この先おつき合いをするということを考えた時、Fさんは何かにつけて女性に判断を仰ぐことが想像できるでしょう。
そんな将来が見えてしまって、女性は手を繋ぐことを断った可能性があります。
たかが言葉、されど言葉ですが、女性のことを思って言ったその一言が、悲しいことにマイナスになってしまうこともあるのです。
けれども、もう済んでしまったこと。
こうなってしまったのは、どれもこれも『嫌われたくない』という自信がないゆえの行動なので、Fさんとはデートをしながらさりげなく女性をリードできるよう、ワンポイントアドバイスを挟みながら毎月のデートを重ねました。
Fさんにとってデートとは、ふわふわした実体のない物だったみたいです。
女性をもてなしていればそれでいいと思っていたようなのですが、なぜデートをするのか、なぜ女性をリードしないといけないのかといった話をしながらデートをすると、デートの必然性を理解してくれたようです。
その『なぜ』が理解できれば、女性にどういった態度を取ればいいのかが分かりやすくなるので、Fさんもただ女性の行きたいところに行くということはなくなりました。
そして、かねてより結婚相談所に登録をしていたFさんは、何人かの相手とデートを繰り返し、成約に結びつき卒業をされました。
□『いい人』を止めたら恋愛が近づく
『いい人』で終わってしまうというのは、男女共に多い悩みです。
そして、その原因は、相手に嫌われたくない気持ちが強すぎて、『都合のいい人』に自ら成り下がってしまうもの。
また、相手に好意を持っていることを悟られたくなくて、みんなに等しく優しくしてしまうという人もいます。
いずれにしても、相手にいい面だけを見せていても、残念ながら相手の特別にはなれないのです。
なぜなら、ダメな面を見せたくないせいで、相手と距離を取ってしまうからです。
親しくなるのを恐れていると言ってもいでしょう。
それもこれも、『嫌われたくない』気持ちが強いゆえのこと。
とはいえ、自分のダメな面を異性にさらけ出すのって、勇気がいりますよね。
ダメな面を含めた自分が自分なんだという気持ちを持つには、自信が必要です。
Fさんの場合は、性格も容姿も仕事の姿勢も女性から好ましく思われていたので、足りなかったのは女性への接し方……デートの経験だけでした。
足りないものは補えばいいだけの話。
デートを重ねて、Fさんの中でデートが『ふわふわした実体のない物』から、Fさんなりの『デートってこういうもの』というものが見つかった時に、相手に楽しんでもらいたい気持ちから行動できるFさんがそこにいました。
そうなってから、結婚相談所でのお見合い成功率がグンと上がったようです。
Fさんの見た目は何も変わらないというのに、自主性や行動力がついただけで、人の好感度はこれほど変わるものかと思ったケースでした。