初対面は『デート』というより『お話を聞いて欲しい』というご要望があって、カフェの前で待ち合わせをしました。
このお相手をEさんとします。
□家でも学校でも孤独
Eさんには、駅前で待ち合わせてからカフェに行くパターンも提案したのですが、お店の前で待ち合わせた方が効率がいいという本人の意見もあって、カフェの前で待ち合わせてから店内に入りました。
Eさんは長いこと孤独を感じていました。
孤独といっても両親とは同居をしているため、物理的な孤独ではありませんが、子供の頃から自分を理解してもらえず、家庭内でも孤立していると感じることが多かったようです。
というのも、両親は教師のため大変な教育熱心で、物心ついた時から家で話すことといったら勉強のことばかり。
日頃のしつけも厳しく、大人と同じ話し方を求められており、時々年齢相応の言葉遣いをしようものなら、『そんな話し方するんじゃない』と非難されるため、家でも気が休まることがありませんでした。
いつしか必要最低限の会話しかしなくなっていったようです。
そういった生活は交友関係にも影響があり、両親が好まなそうな相手とは付き合わなくなっていきました。
自然と学校でも一人でいることが多くなり、腹を割って話せるような友人はできたことがなかったようです。
ワイワイ賑やかに談笑している人の輪を見て羨ましいと思う気持ちはあったようですが、話に誘ってくれる人もいませんでした。
Eさんは大学を卒業すると公務員になりますが、その生真面目さゆえに仕事の評価は高く、Eさんもそれに自信を得て発言の機会が増えてきます。
後輩や部下も増えて、仕事を割り振る立場になりました。
Eさんが発起人となり、後輩や部下たちを相手に、定期的に勉強会を行っているのですが、仕事に役に立つことを教えてあげているにも関わらず、参加者は減る一方。
不参加だった人に参加を促すと、『みんな仕事があるのだから参加できないこともある』と言われてしまいました。
Eさんだって仕事が忙しい中、後輩や部下のために時間を割いているので、仕事は言い訳になりません。
けれども、そう意見をすると、次から勉強会の参加者は一人もいなくなってしまいました。
つまり、疎ましく思われてしまったのです。
思い返せば、Eさんは子供の頃から仲間外れにされてしまうことが多かったと言います。
なぜキチンとしている自分が除け者にされるのか、理由が分かりません。
□当たり前のことを言っているのに非難されて
Eさんには親身になってお話を聞いてくれる友人がおらず、長年の疑問を私に打ち明けてくれました。
お話し始めは怒りの感情に満ちていましたが、話したいことを話せてスッキリしてくると、人との接し方に悩んでいることを教えてくれました。
Eさんは当たり前のことを言っているだけなのに、『厳しい』と言われて人が離れていくのだそうです。
『優秀なあなたには簡単だろうけど、凡人には難しい』と、嫌味を言われることも珍しくないようなんですが、Eさんは人に意見をする分、努力もしているのです。
お話を聞く限り、Eさんには非はありません。
けれども、正しいことが受け入れられるとも限りません。
正しさは、時に相手を苦しめることもあるのです。
実は、Eさんも正しさに苦しめられてきた一人でした。
もうお分かりかもしれませんが、Eさんの両親はEさんに子供の頃から正しさを押しつけて、Eさんを苦しめてきたのです。
子供にとって、親の影響力は絶大です。
その親から苦しいことを押しつけられて、嫌な気持ちでいるにも関わらず、『あなたのため』と言われたEさんは、それを信じて受け入れてきたのです。
Eさんは自身もかつて嫌な気持ちになったにも関わらず、『きみたちのため』と、正しさを後輩や部下に押しつけてしまっていたのでした。
きっとEさんの後輩や部下も、Eさんの言っていることが正しいと分かっているはずです。
けれども、正しいことが万人に受け入れられるかというと話は別のこと。
なぜなら、正論は相手の価値観を否定することもあるからです。
後輩や部下たちは、感情面でEさんを受け入れろれなかったのでしょう。
特にEさんのように生真面目な人は、真正面から100%の正しさを相手に押しつけてしまいがちです。
押されたら押し返したくなるのは人の常。
反発が起きるのも無理はないことなのです。
この先もこの状況が続くなら、Eさんが変わらない限りはEさんはずっと孤独に悩まされるだろうと感じました。
□人との接し方が変われば評価も変わる
Eさんが孤独を感じるのは、子供の頃から安心して何でも話せる相手がいなかったというのが大きいでしょう。
Eさんとお話をしていると、『きちんと話さなきゃ』という緊張感が感じられます。
敬語もなかなか取れません。
Eさんが話しやすいなら敬語でもいいのですが、その敬語がまた人との距離を取る原因になっていました。
聞けば、子供の頃から同級生にも敬語で話す癖があるとのこと。
敬語や正論で武装していない姿を晒さないことには、仲間もできないし、孤独も癒せません。
けれどもEさんは、今まで友人がいたことがなかったため、仲間を作る練習をする必要がありました。
大人になっての友人は必要ないという人もいますが、人の上に立つこともあるEさんなので、友人ではなくとも仲間を作る必要があります。
しかも、組織として動いている仕事のため、横の繋がりに助けられることもあるでしょう。
そう提案をすると、Eさんは仲間への接し方を知りたいと乗り気でした。
有能なため、他人に厳しく見えるEさんなのですが、ちゃんと後輩や部下に尊敬の気持ちがあるのです。
Eさんには『仲間を作る練習』と称して、次回会うまでの目標を立ててもらうことにしました。
毎回目標は一つなのですが、Eさんは会うたびにいくつも質問を持ってくるので、私はその疑問を一つずつ解消していきました。
そして、仲間を作る練習を重ねる中で、Eさんに相談をする後輩ができたのです。
Eさんが後輩や部下への声がけを頑張っていたおかげで、話しやすい雰囲気を作ることができたのでしょう。
Eさんはフリートークは苦手ですが、論理的に説明をするのは上手なため、後輩の相談にも上手に乗れました。
さらに、その後輩の相談に乗った際に、職場での自分の評価を教えて欲しいと、後輩にお願いしたのだそうです。
後輩もそこは濁すことなく、同僚たちのEさんの評価を教えてくれました。
やはり『厳しい』という評価が多く、Eさんは人への接し方について、深く反省をしたようです。
どうしたら誤解を与えないで済むか、私と会っている際も何度も話し合いました。
専門のセミナーにも参加したようです。
やがてEさんは、職場で『なんか変わった』と話題になります。
人の噂に上がったり、人から頼られるようになると、自信がついたのか、次に会った時のEさんの表情が明るくなりました。
それまでコミュニケーションについて考えたことなどなかったのに、自分の接し方が変わるだけで相手から受ける評価が変わるので、そこに面白味を見つけたのだそうです。
また、後輩の相談に乗った時の充足感が忘れられなくて、人から頼られる人になりたいと思うようになりました。
この時から1年後にEさんは卒業していくのですが、そこには後輩や部下から信頼を得た頼もしいEさんの姿がありました。